(毎日 3月8日)
小規模だけに突破力のあるベンチャー企業。
大企業本位を抜け出せない日本経済をよそに、アジアでベンチャーが急成長。
その中心は、留学後に自国に戻ったチャレンジ精神旺盛な起業家たち。
政府もその潜在力が、国の発展の起爆剤となることを期待し、積極的に支援。
中国は今、ベンチャーの力を借りてイノベーション(技術革新)を起こそうと懸命。
◇「海亀」創新に期待--シリコンバレー人脈を活用、米国帰りに多い成功者
北京市中心部から車で30分。
外資系企業の工場やオフィスビルが建ち並ぶ一角に、目立つ7階建てのビルが。
「中国北京留学生創業園」(望京科技創業園)。
帰国留学生が設立したベンチャー企業67社が入居。
3階にある「北京汎辰科技有限公司」の応接室で、
CEO(最高経営責任者)の劉亜平さんが「お会いできてうれしいです」と。
ノーネクタイのラフなスタイルと柔らかな物腰が印象的。
劉さんは87年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学。
工学博士を取得、シリコンバレーで半導体の開発に。
3社を渡り歩いたところで、帰国しての起業を決心。
意識したのは、MITの同級生で、中国で最も利用されている
インターネット・ポータルサイト「SOHU」の創始者、張朝陽さん。
米「タイム」誌の「デジタル英雄」世界ベスト50にも選ばれ、
中国ITビジネスのカリスマと呼ばれる彼の成功物語が、
劉さんの心をくすぐりました。
「汎辰」の主力は、インターネット経由で好きな映画や番組だけを
購入し観賞できるシステム。
日本と違って、衛星放送やケーブルテレビの有料放送が
普及していない中国では成功する可能性があると。
資本金500万元(約7500万円)で04年に起業。
米国での人脈もあり、フランスの通信会社「アルカテル」も出資。
「成功したい。中国の市場はこれから拡大し続ける。大きなチャンスがある」と。
新事業の創出を支援する創業園は、日本でいう「インキュベーション」のことで、
中国語で「孵化器」と記述。
87年に、湖北省武漢市に第1号ができて以来、全土に約460カ所。
日本でも265カ所(02年)あるが、そこから生まれた企業数は
日本の554に対し、中国は3387に。効率に大きな開きがあります。
親鳥が、卵を大切に温めてかえすように、中国政府のベンチャー支援は手厚い。
その一例が「海亀」政策。
創業園のうち、望京科技創業園のように
海外留学からの帰国者対象のものは約50カ所。
彼らは「海帰(外国帰り)」をもじって、「海亀」と。
政府は、90年代後半から呼び戻しを本格化。
この政策によって、海亀は14万人を超え、4000社以上のベンチャーが誕生。
海亀には、さまざまな優遇措置が。
法人税の3年間免除、支援金の支給、低金利・無担保融資など資金面や、
子供を居住地区で最もレベルの高い教育機関に紹介してもらえたり、
創業園に入居すれば、オフィス面積60平方メートルまでは国が家賃を負担。
中国政府は2月、今後15年間の科学技術振興計画を公表。
合言葉は「創新(イノベーション)」。
海外の技術や製品をコピーしてきた今までのやり方を刷新し、
新しい技術や手法、サービスを自力で生み出そうと呼びかけました。
生命科学やIT、新材料、エネルギーなどで革新的な産業を興すことを掲げました。
海亀はこの一翼を担います。
留学からの帰国者を対象にした創業支援施設の充実も盛り込まれました。
だが、活躍が目立つのはもっぱら、劉さんのような米国帰りの人たちで、
日本帰りの留学生は影が薄い。
劉さんと同じ望京科技創業園に入居する日本帰りの
「北京天正創智信息技術有限公司」の尹昌来社長は、
「米国帰りに成功例が多いのは、シリコンバレーの人脈を利用できること。
米国人投資家が中国本土への出資に熱心なことも大きい。
これに対し、日本の投資家は中国投資に慎重だ」と分析。
尹さん自身は、日本での商社勤務の経験を生かし、
創業2年余りで取引先は約200社に増えました。
「調査、宣伝、販売と多面的に日本企業を支援して、中国進出の成功例を作りたい」。
それが自身のビジネスチャンスでもあると見込んでいます。
日本は、4月からの第3期科学技術基本計画に、
イノベーション創出のための研究支援を初めて盛り込みました。
しかし、中国の科学技術政策に詳しい政策研究大学院大学の角南篤・助教授は、
「政策としての取り組みは、中国の方がずっと早い。起業についても
ただハード面の支援だけでなく、インキュベーション・マネジャーの常駐や海外施設との
交流などソフト面の運営を強化していく必要がある」と指摘。
◇後生おそるべしハングリー精神--日本留学生8万592人、全体の66・2%
日本に留学する中国人は年々増加。
中国人留学生は8万592人。
全留学生で最多の66・2%を占め、理工系での留学も多い。
先端的なケースが光触媒を発見した藤嶋昭・東京大名誉教授
(現神奈川科学技術アカデミー理事長)の研究室。
藤嶋研究室で学んだ中国人は、約20人。
毎年開かれる両国研究者の交流会は12回に。
中国の科学界で活躍する「卒業生」も多い。
酸化チタンに光を当てると、強い分解力が生じる光触媒は、
汚れの防止や殺菌効果など、光触媒はさまざまな分野に応用され、
日本は世界の先頭を走ります。
中国科学院化学研究所副所長の姚建年さんは、
中国で高校教師をしていた19年前、光触媒を知り、
藤嶋さんに直訴して日本留学をかなえました。
「世界的に有名な先生がいる日本で学びたかった」。
姚さんは英科学誌「ネイチャー」に多くの論文を発表するなど実績を積み、
帰国後は光触媒技術を中国に広めつつ、
ベンチャー企業にかかわる人材も育てました。
昨年11月には、「中国科学院士」に。
院士は社会的地位と収入が保証され、中国人研究者のあこがれのポスト。
国家ナノテクセンターの江雷首席科学者も、藤嶋さんの弟子の一人。
「田舎の大学を出た私が、ここで研究できるのは留学のおかげ。
藤嶋研究室は光触媒では世界一。自信にもなった」と。
藤嶋さんは「なにしろ、人口が日本の10倍いる。その中からえりすぐりの人材が、
国費留学生として日本にやってくる。ハングリー精神もあるし、
中国が研究費を増やしてくれば、日本の立場はますます厳しくなりますよ」と。
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20060308ddm016070140000c.html
Recent Comments